WGS (全ゲノムシーケンス)の基本: 方法、利点と課題

オミクス基礎知識

はじめに

全ゲノムシーケンス解析(WGS: Whole Genome Sequencing)は、生物のゲノム全体をシーケンスし塩基配列を決定する手法であり、遺伝情報を理解する上で重要なアプリケーションとなっています。この記事では、WGSの方法、利点、そして課題について掘り下げていきます。

WGSの方法と手順

WGSの工程は大きく4つに分けられます。

  1. DNAサンプルの抽出: 対象となる細胞や組織から高品質なDNAを抽出します。
  2. ライブラリー調製: DNAを断片化し、両端にアダプターを付加します。
  3. シーケンス: 調整したライブラリーをシーケンサー(例えばIlluminaのプラットフォームなど)によって読み取り、塩基配列を決定します。
  4. データ解析:生成された大量の配列データをバイオインフォマティクスの方法を用いて解析します。

WGSの利点

WGSは遺伝情報を全体的に理解するための強力なツールです。以下にその主な利点をいくつか挙げてみましょう。

  1. 遺伝情報の全体像の提供: WGSは、生物のゲノム全体をカバーするため、遺伝情報の全体像を提供します。これは、特定の領域に焦点を当てる他のシーケンス技術(例えばWhole Exome Sequencing)とは対照的です。
  2. Non-cording 領域の研究: WGSは遺伝子翻訳領域だけでなく、Non-cording 領域(タンパク質として翻訳されない領域)の配列も得られます。Non-cording 領域には、プロモーターやエンハンサー領域などが含まれており、遺伝子の発現調節や疾患に関与することが知られています。
  3. 構造変異の検出: WGSは、点突然変異だけでなく、コピー数変動(CNV: copy number variations)、挿入欠失(Indel)、転座や挿入、逆位などの大規模な構造変異も検出することができ、融合遺伝子の検出に役立ちます。構造変異は、がんをはじめとする疾患の原因となり、またその治療対象となる可能性を秘めています。

WGSの課題

WGSは非常に強力なアプリケーションですが、いくつかの課題もあります。

  1. コスト面:WGSはまだ高価で、すべての研究プロジェクトや臨床診断での使用には適さない場合があります。しかし、シーケンス技術の進化と共に、コストは下がり続けています。
  2. データ量:WGSは大量のデータを生成します。このデータの管理、ストレージ、そして解析は、大きなコンピューティングリソースと専門的な知識を必要とします。
  3. Non-cording 領域の解釈:WGSはnon-cording領域をカバーして解析ができますが、これらの領域の変異の生物学的な意味を解釈する為には、多くの知見の集積が必要とされています。

まとめ

WGSは、ゲノム全体の塩基配列を提供する強力なツールです。その一方で、コスト、データ量、non-cording 領域の解釈の困難さ、そして個人情報に関する倫理的問題など、いくつかの課題を残しています。しかし、これらの課題にもかかわらず、WGSは遺伝情報を理解し、疾患を診断し、治療を開発するための重要な手段であることは間違いありません。これからのシーケンス技術の進化とともに、WGSの利用可能性と適用範囲はさらに広がっていくでしょう。

参考文献

Goodwin S, McPherson JD, McCombie WR. Coming of age: ten years of next-generation sequencing technologies. Nature reviews Genetics. 2016 Jun;17(6):333

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