遺伝子発現の概略は下記の様になります。
実は、このうちの「1. 転写」の前段階も非常に重要です。つまり、 DNAの中の目的の遺伝子の部分を「コピーできる状態」にしておく
必要があるのです。DNAはヒストンに巻き付いているわけですが、巻き付いたままだとコピーできないのです。
【オープンクロマチン】
DNAがヒストンに巻き付いた状態であるヌクレオソームが数珠つなぎ状態になって、クロマチンと呼ばれるものになっています。このヌクレオソームの間隔が長くなって、DNAがヒストンに巻き付かずに裸になっている部分をオープンクロマチンと呼びます。
DNAからRNAへの転写は、このオープンクロマチンの領域にある遺伝子で行われるのです。
【転写の開始】
DNAの中の遺伝子の部分をRNAへコピーする作業(転写)は、いくつかの専用のタンパク質によって行われます。まず最初は、コピー作業をするタンパク質がDNAに取り付くところから始まります。前述のとおり、この取り付く場所はオープンクロマチン領域でなければなりません。そして、このタンパク質が取り付きやすい状態になっていることが必要なのです。
【転写が始まる条件】
以上で、転写が始まるためには以下の2つの条件があることがわかります。
この2つこそがエピゲノムのメカニズムの大きな要素なのです。
さて、DNAの中のある遺伝子の部分が「オープンクロマチンの状態」だったり「転写のためのタンパク質が取り付きやすい状態」になるのは、どういう場合でしょうか。
【ヒストンテールの修飾】
ヒストンには4本のしっぽ(ヒストンテール)が生えています。これに化学物質がくっつくと、DNAがヒストンから離れたり、逆に強く巻き付いたりするような効果があります。
くっつく化学物質としては「アセチル基」「メチル基」などがあり、それぞれがくっつくことを「アセチル化」「メチル化」と呼び、まとめて「修飾」と呼びます。どのヒストンテールのどの位置に何がくっつくかによって、効果が異なります。
【塩基の修飾】
DNAの中の遺伝子の部分に転写のためのタンパク質が取り付くわけですが、DNAのその部分にある塩基(A・T・G・C)がアセチル化されているかメチル化されているか、つまり修飾によって、取り付きやすくなったり、逆に取り付きにくくなったりするような効果があります。
どの場所のどの塩基に何がくっつくかによって、効果が変わります。
【転写が始まる条件】
以上で、転写が始まるためには以下の2つの条件があることがわかります。
この2つこそがエピゲノムのメカニズムの大きな要素なのです。
遺伝子発現の最初の段階である転写が完了してRNAができたとしても、
そのRNAを翻訳してタンパク質を作る段階へ進まないことがあります。
以上、遺伝子の発現がうまく起こるかどうかは、
によって影響を受け、場合によっては発現が起こらないことを解説しました。
これらの変化や操作を引き起こす修飾(アセチル化やメチル化など)は、現在では検出できるようになってきています。例えば、がん細胞と正常な細胞とで、これらの修飾の違いを比較するデータを多く取って、がんの働きや原因を探ることに役立てられています。
翻訳が始まる前に、RNAが分解されてしまったり、RNAが改変されてしまったり、
することがあります。
これもエピゲノム的なメカニズムが関与しています。