概要
マイクロパターン照射システムPIC特化モデル(以下MPS)* を用いた、領域特異的な遺伝子発現解析の実施例をご紹介いたします。
材料及び方法
正常マウス脳組織を用いて、PICの検証実験を行いました。組織切片を作成し、脳の海馬領域における特定領域にMPSを用いてUV 照射を行いました。以降はプロトコルに従いライブラリー調製を行い、シーケンスを行いました。
MPS:マイクロパターン照射システムPIC特化モデル
マイクロパターン照射システムPIC特化モデル(MPS)は、マイクロパターン照射装置と365 nmUVLED光源のシステムセットです。MPSをお手持ちの顕微鏡に設置することで、任意の位置に任意の形状で同時に複数のパターンを照射することが可能です。その他の付属品につきましてもPIC解析の実施に最適な仕様を完備したのが、PIC特化モデルとなっております。
通常の顕微鏡では、多角形の視野でしか目的領域 (ROI) を定めることができませんが、MPSではDMD(DMD:デジタルミラーデバイス)を使用しているため、サブミクロンの解像度による微細な模様まで照射することが可能です。

PICの原理とワークフロー
PICは、顕微鏡下でUV照射した特定領域のみの遺伝子発現プロファイルを単離できる空間オミクス法です。PIC専用の逆転写反応用オリゴDNAを用いて、切片上で逆転写反応を行います。このオリゴに挿入されているケージド化合物は、365 nm付近のUV光照射により脱離し、脱離したもののみが二本鎖DNAとなるため、目的の領域に由来する転写産物のみが増幅されていきます。
検証実験
正常マウス脳組織の切片を作製し、大脳辺縁系の一部であり記憶を司る海馬領域の3カ所にMPSを用いてUV照射を行いました(図1-a)。MPSのDMDテクノロジーにより歯状回(DG)、分子層(ML)といった通常の傾向顕微鏡では照射することのできない複雑な形状の領域や、苔状細胞(MC)のような単一細胞レベルでのパターンを形成することができました(図1-b)。

※ DG: Dentate Gyrus、MC:Mossy Cells、ML:Molecular Layer
以降は、通常のプロトコルに従いライブラリー調製し、リード1およびリード2合計で3000万リードのシーケンスを行いました。分子バーコードを用いて、ユニークリードと重複リードの比率を算出すると、30〜60%の割合でユニークリードを得ることができました。
次に得られたユニークリードをレファレンスゲノムにマッピングし、マッピングされたリードの割合を求めました。3領域全てにおいて80%以上のマップ率が得られ、発現解析に足りうる十分なリードがマッピングされていることがわかりました(図2)。

次に、マッピングされたリードが、既知の遺伝子に割り当てられた比率を算出しました。遺伝子発現としてカウントされたAssignedリードは、全体の40〜50%程度でした(図3)次に、マッピングされたリードが、既知の遺伝子に割り当てられた比率を算出しました。遺伝子発現としてカウントされたAssignedリードは、全体の40〜50%程度でした(図3)。

検出された遺伝子数はDGで7,930、MCで8,161、MLで9,651となりました(図4)。3つの領域で約8,000〜10,000の遺伝子を検出することができました。

まとめ
MPSを使用することで、一般的な蛍光顕微鏡を用いた従来のPICと比較して、より複雑な形状をした領域や散在している細胞での遺伝子発現プロファイルが可能となりました。直径10〜20 μmの細胞をターゲットとしてUV照射を行うことで、細胞を分離することなく位置情報を保持したまま単一細胞レベルでの遺伝子発現解析も可能となり、さらには細胞内におけるRNA局在についても原理上検出可能となります。FACSによる細胞の回収操作も不要であるため、ソーティング操作に伴う細胞へのダメージや回収操作過程におけるアーティファクトを除去できるという利点もあります。
シングルセル解析においては、組織から細胞を分離してしまうため位置情報が失われてしまいますが、PIC技術を用いることにより、本解析におけるMCのように単一細胞レベルで位置情報を保持したまま、遺伝子発現プロファイルを検出することが出来ます。DMDにより極小な特定領域や単一細胞レベルの遺伝子発現情報を深く読みとることができるため、領域特異的に発現する遺伝子のより緻密な同定を可能にしたシステムがMPSです。
*MPSは弊社からお買い求めいただけます。詳細は弊社スタッフまでお問い合わせください。
機器供給元:株式会社オプトライン
参考文献
Honda & Oki et al. 2021. Nat. Commun. https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
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株式会社Rhelixa(レリクサ)について
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