PIC (Photo Isolation Chemistry) による凍結組織切片の領域特異的発現解析

オミクス基礎知識

はじめに

組織中の特定の細胞集団における遺伝子の発現を検証することはその生物学的特徴や医学研究によって非常に有用な研究手法です。特定の細胞集団の遺伝子発現を調べるためによく利用される手法として、目的の細胞・組織を顕微鏡で観察・確認しながら特定の領域のみをレーザーで切り出して回収するレーザーマイクロダイセクションや、細胞集団から細胞を分離するセルソーティングがあります。
しかしながらレーザーマイクロダイセクションは、「組織および核酸への物理的なダメージ」、セルソーティングは、「位置情報が失われる。細胞懸濁時のダメージがある」と言った欠点があります。
これらの問題を解決し最小化した技術が、PIC(Photo Isolation Chemistry)です。光開裂型ブロッカーがついたPIC用オリゴを用いることで、組織切片上でUV光照射した特定領域のみの遺伝子発現情報を取得することができます。

特長

[特異的]
光照射した領域特異的に遺伝子発現解析を可能とします。
[高検出感度]
直径数十μmの範囲、数細胞〜十数細胞から次世代シーケンサー用のライブラリーを調製できます。
[低コスト]
分子生物学的実験を行うラボにある一般的な設備でライブラリーを調製できます。

テクノロジー

PICは、Photo Isolation Chemistryと言う技術名称の頭文字です。オリゴdTに次世代シーケンサー用のアダプターと光開裂型ブロッカーと呼ばれる修飾をつけたオリゴを新鮮組織ブロックから作製した切片に添加し、切片上で逆転写反応を行います。解析対象の領域にUV照射を行うことで、その領域にある逆転写産物から光開裂型ブロッカーが外れます。ブロッカーの開裂により、2nd strand合成後に行うRNAのin vitro転写反応の阻害が無くなり、UV照射領域のみにおいてRNA増幅を可能とします。

PICワークフロー

検証実験

正常マウス腎臓組織を用いて、PICの検証実験を実施しました。組織切片を作製し、照射範囲、100μm、22μmの2条件でUV照射を行いました。以降は、通常のプロトコルに従いライブラリー調製し、リード1およびリード2合計で3000万リードのシーケンスを行いました。
分子バーコードを用いて、ユニークリードと重複リードの比率を算出しました(図1)。30〜60%の割合でユニークリードを得ることができました。

図1 照射範囲ごとのユニークリード率
※ 照射範囲の条件:condition 1:100μm、condition 2:22μm

次に得られたユニークリードをレファレンスゲノムにマッピングし、マッピングされたリードの割合を求めました。Condition1および2ともに85%以上のマップ率が得られ、発現解析に足りうる十分なリードがマッピングされていることがわかりました(図2)

図2 照射範囲ごとのマッピング率

次に、マッピングされたリードが、既知の遺伝子に割り当てられた比率を算出しました。遺伝子発現としてカウントされたAssignedリードは、全体の40〜50%程度でした(図3)。

図3 マッピングされたリードが遺伝子に割り当てられた比率

検出された遺伝子数は、条件1で14,067、 条件2で12,978となりました(図4)。UV照射範囲が、condition1で100μm、condition2で22μmと、 微小なスケールであったにもかかわらず、 12,000を超える遺伝子を検出することができました。

図4 検出された遺伝子数

シングルセル解析においては3,000〜5,000程度の発現遺伝子を用いて、細胞集団の特徴付けを行いますが、PICでは微小RNAをスタートとする実験系であるにも関わらず、位置情報を保持したまま、その数倍に当たる遺伝子発現を検出することができました。condition1およびcondition2において、マウスの腎臓より検出されたマーカー遺伝子の一例を以下に示します。

まとめ

シングルセル技術では、個々細胞の遺伝子発現プロファイリングが可能ですが、細胞を分離しなければいけません。しかしながら、眼球、肺、皮膚などのような組織は細胞間接着因子に富むため調製が難しく、生細胞の場合は細胞を分離することによる人口的な影響が出る可能性もあります。しかしながら、PICでは、新鮮凍結切片にできる組織であれば適用可能なため、細胞分離の難しい組織の遺伝子変動解析に活用できます。
例えば、この技術の適用により、多種多様な細胞で構成される腎臓において、壊死した部位と正常部位の遺伝子発現の違いを、同時に観察することが可能となります。また、がん病変における部位ごとの発現変動遺伝子の検出にも適用することができると考えられます。

参考文献

Honda M et al. 2020 doi: https://doi.org/10.1101/2020.03.20.000984

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