[エピゲノム入門]5 エピゲノムの応用

この節から学ぶこと

  • エピゲノムとは、「遺伝子の使い方を決めるスイッチ」のようなもの
  • エピゲノムと様々な病気との関係が指摘されている
  • エピゲノムは畜産業や農業への応用も期待されている

エピゲノムの将来性

この「エピゲノム入門」では、エピゲノムを知るために、まずは細胞と遺伝子について紹介してきました。 なぜなら、エピゲノムは「どの遺伝子を使い、どの遺伝子を使わないかを決めるスイッチ」のようなものであり、細胞や遺伝子のことを正しく知ることでエピゲノムの重要性が理解できるようになるからです。

 ここからは、エピゲノムを具体的に解説しながら、エピゲノムを医療や育種などの産業に活用する将来性や、エピゲノムを調べる方法についても解説します。 難しい単語については、その単語について解説する記事へのリンクがあるので、復習ついでに振り返っておきましょう。

 ちなみに、エピゲノムを研究する学問のことを「エピジェネティクス」と言います。

エピゲノムと高血圧、花粉症

様々な病気とエピゲノムとの関係が注目されています。 「1-1. なぜエピゲノムを知ることが重要なのか」では、がんと糖尿病について解説しましたが、 ここではさらに心血管疾患と花粉症(アレルギー)について紹介します。

【心血管疾患】

心臓や血管系の病気全般を「心血管疾患」と言います。 例えば、心筋症、心不全、高血圧症、動脈硬化症、先天性心疾患などがあります。このうち、心筋症、心不全、高血圧症、先天性心疾患は、マウスを使った実験からエピゲノムが関係している可能性が考えられています。 その仕組みも様々で、 クロマチンをほどく過程、 ヒストンのメチル化やアセチル化、 さらにはDNAのメチル化 が関わっているとされています。

また、第二次世界大戦中のオランダの飢餓の追跡調査から、飢餓状態の母親から生まれた子供では高血圧になる人が目立っており、IGF2という遺伝子のプロモーターのDNAメチル化の頻度が下がっていることから、高血圧と何らかの相関があると指摘されています。参考記事:3-2 クロマチン構造の変化とRNA合成

【花粉症(アレルギー)】

主に春先で花粉症で苦しむ人たちは多いでしょう。花粉症は、花粉が鼻の粘膜に触れることでアレルギー反応が起き、くしゃみや鼻水などを引き起こします。その後しばらくして、鼻が詰まります。 後者の鼻が詰まる理由は、免疫細胞である「ナイーブT細胞」が抗原(花粉やアレルギー物質)と「Th2サイトカイン」という刺激物質に刺激されると「サイトカイン」が放出され、鼻の粘膜が傷ついて修復しようするからです。このとき、Th2サイトカインの放出には、クロマチン構造の変化(クロマチンがほどけること)が関係していることがわかっています。また、DNAのメチル化も関係があると考えられています。

産業応用の可能性

エピゲノムは医療だけでなく、畜産業や農業でも注目されています。

【牛の精子】

牛の精子において、特定のDNAのメチル化と年齢には相関があるとする研究報告があります。 マウスやヒトにおいても同様の現象が確認されており、不妊との関係も指摘されています。

牛においては、品種を維持する上で特定のオスの精子を利用することがあります。精子のメチル化と不妊との関連が明らかになれば、精子が卵子に受精できるかどうか、受精卵が正しく細胞分裂できるかどうか の評価に活用して、より効率的な品種維持に応用できると期待されます。

【ジャガイモの品種改良】

植物では、RNAがDNAのメチル化を促す「RNA指令型DNAメチル化」という現象が知られており、これを利用した品種改良の研究が進められています。

 例えば、ジャガイモのある遺伝子のDNAをメチル化させるRNAを作るウイルスを感染させます。すると、そのジャガイモの球根では、狙ったDNAがメチル化されています。球根に残らないウイルスを使えば、遺伝子組換えには該当しないため、通常の品種改良と同じ扱いで流通させることができると考えられています。

おわりに

この「エピゲノム入門編」は、「Rhelixaエピゲノム講座」の最初のコースです。エピゲノムについての簡単な概略を解説しました。 エピゲノムは、非常に複雑で、その範囲も広いものです。さらに、まだわかっていない事項も多く、いま現在、どんどん発展中です。 ですから、この「エピゲノム入門編」では、多くの例外事項や制限事項をあえて説明せずに解説しているところもあります。その点はご承知おき、ご了承ください。

次の「エピゲノム初級編」では、さらに詳しい解説を載せてゆきます。

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